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東京高等裁判所 昭和23年(行ナ)15号 判決

原告 大沢泉

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は末尾添附の訴状記載のとおり請求の趣旨並に請求の原因を陳述して尚末尾添附の準備書面記載のとおり主張した。

被告指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め答弁として訴状記載の請求原因に対し第四項後段「以上抗告審決の理由は前記引用特許の内容を誤認した結果かゝる判断が為されたのである。即ち右特許の製粉機に於いては『珠の配置を中部に疎に周囲に密に為し』たものではない。本願発明は根本思想に於て全く異なれるもので各その奏する効果も本願の明細書に記載してある様に全然特殊な効果があつて別個の発明を構成するものである」との部分を否認しその他は認めると述べ尚末尾添附の準備書面記載のとおりに主張した。(立証省略)

三、理  由

原告がその発明した『関係的に回転する一組の臼盤の一方に、穀粒が進入する中心部においては疎間隔に、そして臼盤の周囲に至る程、密な間隔を保つて内面に多数の圧砕球を同心環状位置に配置するとともに、他方の臼盤の内面にはその周囲にのみ前記圧砕球の環列間に当つて圧砕球を配置しこれら圧砕球を各臼盤から一部突出させて各自その位置において転動自在に保持し、各その頂部を相手の臼盤面に圧接するようにした製紛機』につき、特許局に対し昭和二十二年八月二十二日特許出願をし右出願は昭和二十二年特許願第五八五四号として受理せられた事実、同出願に対し特許局審査官が原告主張のような理由によつて拒絶査定をした事実、原告が右拒絶の査定に対し抗告審判の請求をなし、特許局抗告審判官が原告主張の理由によつてその請求を排斥する審決をした事実はいずれも当事者間に争がない。

而して成立に争のない甲第一号証によれば特許第一五九九一〇号明細書世に図面に記載せられた製粉機(以下特許第一五九九一〇号製粉機と称する)は「水平回転盤と固定加圧鈑との間に於て鋼球(圧砕球)を嵌挿すべき孔を渦巻状に穿設した二枚の穿孔鈑を回転軸に遊嵌しこれに鋼球を渦巻状に配置して回転盤を回転して鋼球に回転を与えると共に遠心力と各球自体の位置による推力とによつて原料を外方に移送するようになし発条で加圧鈑を押圧して鋼球を両盤との間で圧接し中心部に原料供給口を設けてこれから原料を供給しこれを鋼球の位置に移送するように掻片を設けた製粉機」であることが、

成立に争のない乙第一号証によれば特許第一七三五九三号明細書並に図面に記載せられた製粉機(以下特許第一七三五九三号製粉機と称する)は「回転軸に周側部を螺状となした平面式の歯となしその内側面に順次間隙を疎にした数列の山形状の歯を同心環状に設けた円形回転粉砕板を取付けこれに噛合う歯を夫々同様に数列設けた円形固定粉砕板を機体内に固定し、回転粉砕板には螺状筒を嵌装して原料を強制的に給送し主軸の先端には粉砕板の間隔を調整する調節装置を設けて構成した製粉機」であることが、

成立に争のない乙第二号証によれば、登録実用新案第一八三七三号説明書並に図面に記載せられた製粉機は「固定臼の中心に回転軸を挿に通しこの軸に螺状弾機で固定臼に押付けられる回転臼を設け固定臼及び回転臼には放射状に彎曲し且周縁に向つて高さを増しその上面には網目状の刻目を施した長い突条と臼の周縁に近い部分には上面に網目状の刻目を施した短い突条と又その周縁全面には環状をなした梨子地状の粗面を形成し原料投入口に自動供給器を設けて構成した製粉機」であることが、

成立に争のない乙第三号証によれば、昭和六年実用新案出願公告第一〇六五五号説明書並に図面に記載せられた製粉機(以下昭和六年実用新案出願公告第一〇六五五号製粉機と称する)は「一対の摺動台盤の一方又は双方を回転しその中央部から原料を供給するようになし摺動盤には順次外周になるに従い間隔を密にした放射状の摺砕歯を対向して設け外周に平滑な摺合縁面を凸設して対向する摺砕歯の間隔を最少限度に保つて歯が互に衝突することのないように構成した製粉機」であることがそれぞれ認められる。

然るに本件特許願の製粉機の実物の写真であることに争のない甲第二号証検証の結果、鑑定人横畠敏介の鑑定の結果を参酌して、本件昭和二十二年特許願第五八五四号製粉機と特許第一五九九一〇号製粉機と対比するときは、両者はボール式製粉機であつて関係的に回転圧接する一組の臼盤の間に多数の圧砕球(鋼球)を備え穀粒を回転盤の回転に伴い中心部から外側に移送しつゝ圧砕球で圧砕するものであることに於て一致し、又圧砕球(鋼球)自体もその位置で転動自在に保持しその頂部を臼盤面に圧接したものであつて、圧砕球は圧砕作用をなすのみで衝撃によつて製粉を行うものではなく、両者は共に臼盤と球との接触で球の回転によつて粉粒を圧砕するものであることは明白である。唯前者特許願製粉機に於ける圧砕球は同心環状に臼盤から一部を突出し各自その位置に於て転動するように保持されその頂部で相手臼の臼盤面に圧接して原料を圧砕するようになし且圧砕球の配置として中心部から外周に至るに従い順次疎より密となし、外周の近くでは回転臼盤の外に固定臼盤側にも圧砕球を設けたものであるに対し、後者特許第一五九九一〇号製粉機に於ては鋼球(圧砕球)を固定臼盤回転臼盤との間に介装遊嵌した二枚の穿孔鈑の間に渦巻状に配置し固定臼盤と回転臼盤との両圧接部で圧砕作用をなすようにした点に於て差異はあるが、圧砕球を環状に配置することは甲第一号証の特許第一五九九一〇号製粉機の明細書中に「……即ち同数の鋼球を同心円状に配置せられたるに比較し渦巻状の場合は原料が各鋼球を順次に経て全鋼球の作用を受け得るに対し同心円状の場合は一の円列より次の円列に原料が送らるゝに過ぎず……」と記載してあることから、ボール式製粉機に於て鋼球の取付方は不明ではあるがこれを同心環状に配置することは既に公知であると認められる。又特許願製紛機に於ける圧砕球の自転並に公転することについても特許第一五九九一〇号製紛機に於ては原料の多少によつて速度には遅速はあるが公転しながら自転をなしその取付方も格別工夫を要するものとは認められない。又製粉能率を良くするためには短時間内に大量の穀粒を挽砕して製粉となすことにあるから荒い穀粒を荒砕する部分は当然臼盤の刃の間隔を疎とし順次これを密となして挽砕するようになすことは特許第一七三五九三号製粉機、登録実用新案第一八三七三号製粉機、昭和六年実用新案出願公告第一〇六五号製粉機に於てもその設計に意を用いてあることが認められ、本件特許願製粉機の圧砕球を臼盤の外側に至るに従い疎より密となした点は同一の着想であるものと考えられる。従て昭和二十二年特許願第五八五四号製粉機の要旨とする「関係的に回転する一組の臼盤の一方に、穀粒が進入する中心部においては疎間隔に、そして周囲に至るに従い順次密間隔に多数の圧砕球を同心環状に配列設置すると共に他方の臼盤の内面にはその周囲にのみ前記圧砕球の環列間に圧砕球を配置しこれ等の圧砕球を各臼盤から一部突出させて各自その位置に於て転動自在に保持して各その頂部を夫々相手臼盤面に圧接して成る製粉機」は(一)、特許第一五九九一〇号製粉機、(二)、特許第一七三五九三号製粉機、(三)、登録実用新案第一八三七三号製粉機、(四)、昭和六年実用新案出願公告第一〇六五五号製粉機の各記載事項を綜合して格別発明思想を要することなく設計によつて容易に連想し得る程度のものと認定せす。鑑定人奈倉勇の鑑定の結果右認定に反する見解は採用しない。

然らば本件特計出願に係る昭和二十二年特許願第五八五四号製粉機は特許出願前国内に頒布せられた刊行物に容易に実施することを得べき程度に於て記載せられているものと認められ新規な工業的発明とは云えないからこの理由により原告の抗告審判の請求を排斥した特許局の本件抗告審判の審決は相当である。

よつて右審決の違法なことを理由とする原告の本訴請求は理由がないから民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

訴状

請求の趣旨

特許局が昭和弍拾三年抗告審判第壱五九号事件につき昭和弍拾参年八月拾参日為した審決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

旨の判決を求めます。

請求の原因

第一 原告(特許出願人、抗告審判請求人)は自己の発明した『関係的に回転する一組の臼盤の一方に、穀粒が進入する中心部においては疎間隔に、そして臼盤の周囲に至る程、密な間隔を保つて内面に多数の圧砕球を同心環状位置に配置するとともに、他方の臼盤の内面にはその周囲にのみ前記圧砕球の環列間に当つて圧砕球を配置しこれら圧砕球を各臼盤から一部突出させて各自その位置において転動自在に、保持し各その頂部を相手の臼盤面に圧接するようにした製粉機』につき特許局に対し昭和弍拾弍年八月弍拾弍日特許出願をした。

第二 右出願は昭和弍拾弍年特許願第五八五四号の願書番号を以て受理された、特許局審査官は審査の結果、右出願に係る発明は出願前、国内に頒布された刊行物即ち特許第壱五九九壱〇号明細書並図面に容易に実施し得る程度に記載されたものであるから特許法第四条第二号の規定によつて同法第一条の新規な工業的発明と認めることができないとの理由で拒絶すべきものと認められた結果、これに対し意見があれば意見書を提出せよと出願人(原告)に対し通知が発せられた。

これに応じ出願人は昭和弍拾参年四月拾五日意見書を提出したがその理由を採用せずして特許局審査官は同年五月拾八日左の主文を以て拒絶査定をした。

拒絶査定の主文

本願は、これを拒絶すべきものとする。

第三 出願人は右拒絶査定に不服であるから特許局に対し昭和弍拾参年六月弍拾弍日、抗告審判請求書を提出した、これが昭和弍拾参年抗告審判第壱五九号事件である。

抗告審判請求人(出願人)は同年七月弍拾七日抗告審判請求理由補充書を提出した。

然るに特許局、抗告審判官は、抗告審判請求人の主張理由を採容せずして同年八月拾参日左の主文をもつ審決を与えた。

昭和弍拾参年抗告審判第壱五九号

主文

本件抗告審判の請求は成立たない。

右審決は抗告審判請求代理人へ同年同月弍拾壱日に送達された。

第四 前記抗告審決の理由は次の如く説示している。

即ち

本願の発明を特許第一五九、九一〇号の明細書に記載されている製粉機と対比するに『両者は上下の臼の間に圧砕球を介在せしめ而も其の球の配置を中部に疎に、周囲に密に為した根本思想に於ては全く一致する、尤も本件発明は右根本思想に於て前述の相異点を加味したところを要旨とするものであるが、然し圧砕球を同心環状に配することは極めて普通に知られ、そして又該機を臼の一方にのみ配置しても特に効果ありと為し得ない』と言つている。以上抗告審決の理由は前記引用特許の内容を誤認した結果かかる判断が為されたのである。即ち右特許の製粉機に於ては『球の配置を中部に疎に、周囲に密に為し』たものではない。本願発明は根本思想に於て全く異なれるもので、各その奏する効果も本願の明細書に記載してある様に全然特殊な効果があつて新規な別個の発明を構成するものである。

準備書面(原告提出)

右当事者間の特許庁抗告審決取消請求事件につき原告は左の通り陳述する。

第一 原告出願に係る特許願の製粉機は、ボール式製粉機であり、その拒絶査定の理由に審査官が引用した特許第一五九、九一〇号明細書に記載された製粉機もまたボール式製粉機に相違ないが、元来ボール式製粉機なるものは相当に以前から知られたものでこれに関しては既に今日まで多数の改良発明考案が加えられたものである。而して本願がこのボール式製粉機について新規の発明なりと主張する処は一言にして云えばボールの配置方式の点であつて、即ちボールの配置に関し独特の創案を施したことによつてボール式製粉機としての作用効果を飛躍的に向上せしめた点である。

一般製粉の原則に属することであるが、元来小麦製粉を行うには二つの方法がある。その第一の方法は単一の工程を反復し都度製品を求める方法であり、第二の方法は多数の種類の異る機械を用いて順次変化する粉砕状況に即応せしむるような組合せ施設によることである。しかし、この二つの方法には何れも一長一短があり、第一の方法によるときは、機械や取扱は簡単であるが、製品の品位と歩留りの点で難がある。その最大の原因は、単一工程であるから、最初から完全粉になるものもあれば中途半端な粗雑粉は勿論のこと、殆んど原料のまゝで吐き出されるものも幾分かはできて、これらがその含有する温度によつて互に粘着しつゝ機械から排出されるため篩別けが困難となり、また操作を反復するに従つて機体の摩擦熱や原料表皮の色素その他の影響を受けて製品が不良となり、しかも作業に長時間を要するのである。これに反し第二の方法によるときは全工程を粗砕、精粉等の如く大別し、各これに相当する機械を以て処理するから理想的で、第一の方法の如き欠点は先ずないが、設備は自然複雑尨大なものとなるから、大規模の製粉工場となり、簡易に製粉を行うことができないのである。

本願発明の狙いは、一つの機械によつてこの第二の方法による特徴成果を期待したものである。従つて在来幾多の種類あるボール式精粉機とはその根本においてその性質、着想を異にするものである。

第二 本願発明の要旨は、前項においてボールの配置方式にありと述べたが、その配置関係について具体的に改良点を挙げれば、その発明の構成要件は(別紙図面参照)

a 臼盤の一方(3)に対し、中心部では疎間隔に、そして周囲に至る程密間隔になるような関係に多数の圧砕球(9)を同心環状位置に配列すること。

b 他方の臼盤(2)には、周囲にのみ前記圧砕球(9)の環列間に当つて圧砕球(10)を環状に配置すること。

c これら各圧砕球(9)(10)は、各臼盤(2)(3)から一部を突出させて各自転動自在に容設することによつてその頂部を相手の臼盤面に圧接するように保つたこと。

である。以上abcの組合せによつて本願は、穀の圧砕程度と、圧砕球の転動速度及配置密度関係とを合理的に調和して能率よく製粉を行い得るものである。

即ち臼盤中心部の入口(7)から、適量に供給された穀は、先ず最初に中心附近の疎間隔に配置された圧砕球(9)によつて粗砕され、これが漸次周囲に進む程密間隔の圧砕球(9)によつて次第に細かく圧砕されるもので、この場合若し中心部附近にも密間隔に圧砕球を設けたとすると、穀を直接一時に細かく粉砕する作用を呈し、順次粗より密に圧砕せんと欲する製粉作用を最初からいきなり終段階にまで飛躍させることになるから、粗細各様のものを生じ、同時に回転の円周速度の小さい中心部において急激に量が増えるから、細粉は臼盤の回転による遠心力の作用で周囲方向に進みにくくなり、その含有する水分によつて互に粘着する傾向を生じて停滞し、円滑な作用を行い得ざるのみならず、摩擦熱の発生を促がし、同時に原料表皮の色素などの影響を受けて品質を低下させる傾向があるが、本願の如く圧砕球を疎より次第に密になるような関係に配置するときは、前述の如くして先ず粗砕より始めて順に細かく圧砕するために、かゝる欠点を生ずることなくして原料は最初粗砕されるから、遠心力の作用によつて容易に周囲方向に進み、次第に細かく圧砕されるが、周囲方向に進めば臼盤の回転円周速度は増大されるから、原料は小さくなるものゝ結局遠心力の作用は大きくなり、原料は順調に移動ししかもこれが臼盤(2)の周囲部分に至れば圧砕球(9)の環列間に当つて圧砕球(10)を環状に配置し、各球圧砕(9)(10)は各臼盤(3)(2)から一部を突出させて容設し、その頂部を互に相手の臼盤面に圧接させたから、それまでに相当細かく圧砕された原料は、停止列の圧砕球(10)と回転列の圧砕球(9)の間を通過する際、確実に且頻繁に球(9)(10)によつて圧砕され、同時に球(9)は上部で球(10)は下部で圧砕し、また停止列と回転列とが交互に配列されてあるから、細粉原料は臼間において上下に攪乱されて自から全部一様に圧砕せられ、しかも圧砕球(9)(10)は総て一部を突出させて臼盤に容設し、原料に対して受動的に転動するから、摩擦両様の働きをなし、以て穀の外皮即ちフスマを細かく砕かないで(フスマを細かく砕くと最後に篩分けしてもフスマを完全に分離することができないが、フスマを細砕しなければこれを完全に分離できるから良質の粉が得られる)中実だけを粉砕する合理的な製粉作用を行うものである。

第三 飜つて本願拒絶の理由に引用された特許第一五九、九一〇号明細書に記載された製粉機は、水平回転盤(2)と固定加圧盤(3)との間に多数の鋼球(5)を渦巻状に配置し、この鋼球を回転軸(1)に遊嵌した二枚の穿孔板(6)(6)によつて渦巻位置に保持し、回転盤(2)の回転によりその間の摩擦で鋼球(5)を自転公転せしめて鋼球(5)と回転盤(2)との間で製粉作用を行うように構成したものである。

従つて右引用特許と本願とを比較すれば全然その構成が相違し、引用特許はボールの配置を渦形にしたものであり、またボールを総て回転盤(2)と固定加圧盤(3)との間に介在せしめ、回転盤(2)の回転によつて渦巻状位置を維持したまゝ円運動を行うようにしたものであるのに反し、本願はボールの配置密度を漸変的に変更するとともに、周囲においてボールを上下に対向させ各そのボールを上臼盤及下臼盤に支持せしめたものであるから、結局本願の要旨とする前記abcの諸点を全然具えていないのである。

引用特許のようにボールを渦状に配列すると、原料が供給口から排出部に移動する間に、各ボールを順次に経し平均した製粉作用が行われる訳であるが、実際上はこのように理想的には作用しない。

即ち原料は遠心力の作用を受けるものゝある程度粉砕されると回転盤(2)の面に附着したり、回転盤と共に回転しながら外方に移動したりする一面、ボールは渦巻配置であるため、一つのボールは一回転中に一回、しかも通過的に働くのみであるから原料の全部が全ボールによつて製粉作用を受けることは至難で一部の原料はボール列の間を拔けて流動する等の欠陥を生ずる。のみならずボールは総て回転盤(2)との接触摩擦によつて受動的に転動するものであるから、回転盤上に多量の粉末が粘着するときは、製粉上必要な回転盤とボールとの関係的回転を阻止して製粉作用を著しく低下する等その機能において不充分な点がある。

以上約言すれば、本願によるときは

(イ) 原料が粗い間は製粉も疎くすること

(ロ) 原料が細かくなれば、製粉作用も頻繁となるようにすること

(ハ) 充分に微細になれば、上下二面のボール圧接関係によつて激しく圧砕すること

の三作用を一組の臼内において漸変的に遂行するように構成したものであるが、引用特許は終始原料を平均に粉砕することゝ、機の運転を軽く行わんとすることを目的として構成したものであるから、その発明の根本から着想を異にし従来のボール式製粉機の性能は、一つの仕上的補助機に過ぎなかつたが、本願によるときは製粉における各段階を経て細粉に至るまでの工程を連続して行い得るものであるから、本願は引用特許とは大なる相違があり、工業上の効果においても特色を有するものである。従つて本願は当然特許法第一条に該当する新規の発明を構成するものである。

第四 しかるに、原審即ち特許庁においてなした抗告審判の審決理由は次の如く説示している。即ち

右の発明(本願の発明)を原査定に於て拒絶理由に引用した特許第一五九、九一〇号明細書に記載されている製粉機と対比するに、前者に於て圧砕球が円心環状に配置さるゝに対し後者における夫れは渦巻状に配置さるゝ点及び前者に於ては一方の臼に対しては其の周囲にのみ圧砕球を配置したのに対し引用例に於ては球をして両臼の中間にあらしめた点を異にするに過ぎない。蓋し両者は上下の臼の間に圧砕球を介在せしめ、而も其の球の配置を中部に疎に、周囲に密に為した根本思想に於ては全く一致する、尤も本件発明は右根本思想に於て前述の相違点を加味したところを要旨とするものであるが、然し圧砕球を同心環状に配することは極めて普通に知られそして又該球を臼の一方にのみ配置しても特に効果ありと為し得ない、要するに此の相違点は単純な設計考案の附加に属する云々

と言つているが、以上抗告審決の理由は重大な事実の誤認及審理の不尽がある。次にその点を指摘する。

第一点 抗告審決の理由は、本願と引用特許とを比較して「蓋し両者は上下の臼の間に圧砕球を介在せしめ而も其の球の配置を中部に疎に周囲に密に為した根本思想に於ては全く一致する」と説示しているが、引用特許はその第二図によつても明かなようにボールを渦巻状に配置したものであり、そのボールの配置間隔は渦巻線に沿つて中心部から周囲末端部に至るまで全く一定の寸法を以て置かれ、このボールは上下二枚の穿孔板(6)(6)によつてその配列状態に保持されたものであるから、その配列関係は中部と周囲とに何等疎密の差異が認められないことは極めて明瞭である。しかるにこの巻渦配置を捉えてボールの配置を中部に疎に、周囲に密なりと誤認し、以て前記の如く「両者は………中部に疎に周囲に密に…………全く一致する」と説示し、原告(抗告審判請求人)の主張を排斤したのは、大なる誤りである。

第二点 抗告審決の理由は、本願と引用特許とを比較して「蓋し両者は上下の臼の間に圧砕球を介在せしめ云々」と言つている。引用特許は上部の加圧板(3)と下部の回転板(2)とを以て唯単にその間にボールを挾んだものに過ぎないから、明かに上下の臼の間に圧砕球を介在せしめたものに過ぎないが、本願の構造では既述の如く唯単に上下の間に球を挾んだものではなく、球(9)(10)は各臼盤(3)(2)に殆んど埋め込んで僅かに臼の内面から一部を突出させたものに過ぎない。従つて一方の球(9)は下部の臼盤(3)に保持され、また他方の球(10)は上方の臼盤(2)に保持されて各所属の臼盤に装置して臼盤の一部を構成するものであるから、これを指して上下の臼の間に圧砕球を介在せしめたとは観念し得られない。しかるに審決の理由ではこれを上下の臼の間に圧砕球を介在せしめたものと認めているが、事実に沿はざる認定と言うの外なく、到底肯定し得られない処である。

第三点 抗告審決の理由において尤も本件発明は右根本思想に於て前述の相異点を加味したところを要旨とするものであるが、然し圧砕球を同心環状に配することは極めて普通に知られそして又該球を臼の一方にのみ配置しても特に効果ありと為し得ない」と説示しているが、本願の発明は既に述べた如く一方臼盤(3)には中部に疎で周囲に至る程漸次密なる如く球(9)を配置し、これに対し他方の臼盤(2)には周囲にのみ球(9)の環列間に当つて球(10)を配置するものであるから、前記抗告審決の理由の如く球を臼の一方にのみ配置したものではない。従つて球を臼の一方にのみ配置したと誤認し、この前提の許に特に効果ありとなし得ないと本額の特徴を否定した原審の理由は、甚だ失当である。

第四点 抗告審決の理由は、本願発明の構成要件を個々別々に羅列し、引用特許と対比してその異同を指摘せんとする意図の下に説明されているに止まり、本願発明の構成要件が全体的に相互に如何なる索連関係の下に一定の作用効果を奏し、よつて発明として工業上如何なる価値を有するものであるかと言うことについて審理が尽されていない。この点に関しては原告は、抗告審判請求理由補充書において、殊にその第五項において詳細に亘り説明したのであるが、抗告審決の理由は右原告の主張には少しも触れることなく唯漠然と「特に効果ありと為し得ない要する此の相違点は単純な設計的考案の附加に属する」と断じよつて「本件の製粉機は前示引用例の既に存する以上未だ猶特許法に謂ふ発明を構成するに到らないものと認められ云々」と説示したのは、明かに審理不尽理由不備で本願発明の重要な特徴を看過したものであるとの非難は免れない処である。

第一図〈省略〉

第二図〈省略〉

第三図〈省略〉

第四図〈省略〉

第五図〈省略〉

以上述べた如く抗告審決の理由には種々不合理な点があるから、原告請求の趣旨通りの判決を求める次第である。

なお、従来の「特許局」は、昭和二十四年五月二十五日より「特許庁」と改称されることになつたから、本書面では総て「特許庁」と記載した。

準備書面(被告)

原告の出訴理由とするところを要約すれば、即ち本件発明の「ボール式」製粉機の新規とするところは、「ボール」の配置に関し独特の創案を施した点であつて、其の構成要件を挙ぐれば、次の通りである。

(A) 臼盤の一方(8)に対し、中心部では疎間隔に、そして周囲に到る程密間隔になる様な関係に多数の圧砕球(9)を同心環状位置に配置すること。

(B) 他方の臼盤(2)には、周囲にのみ前記圧砕球(9)の環列間に当て圧砕球(10)を環状に配置すること。

(C) これら各圧砕球(9)10(は)、各臼盤(2)(3)から一部を突出させて各転動自在に容設することによつて頂部を相手の臼盤面に圧接するように保つこと。

以上(A)(B)(C)点であつて之等の組合はせにかゝるものであり被告の例示した製粉機と其の構想を異にし新規の発明を構成すると云ふにある。

仍て按ずるに抑々本件製粉機の様に多数の「ボール」を臼盤面の一定の位置に嵌装しそして一方臼盤の廻転と共に其の「ボール」によつて圧砕するということは、従来の臼の構想即ち上下の臼盤面に多数の歯を植設しその一方臼盤の廻転と共に夫れの歯によつて製粉するということの改変であつて、畢竟夫れは従来周知の臼に於て其の粉砕用歯の代りに「ボール」を嵌装したこととなるのである、而して此の様に従来の固定歯の代りに一定位置で自転する「ボール」を採用した型の製粉機が已に公知なことは曩に被告が其の拒絶理由に引用した特許第一五九、九一〇号明細書中にも記載され明であるばかりでなく其他にも例あり極めて周知のことである。そして又斯る際該「ボール」の配置方として之を臼盤面に同心環状に配置することも已に周知であつて、此のことは原告が曩に提出した発明明細書中にも記載されている、是に依て観れば本件製粉機に於て新規なりとして主張する点は単に該「ボール」の配置方を中心部に於て粗に、そして周囲に至るに従ひ之を密にした点と、該「ボール」を上下臼盤の周囲部では両臼に設け而も一方の「ボール」を他方の「ボール」の環列間にあらしめた点のみに帰することとなる、仍て此の点について更に審究するに、本件製粉機と同一の目的即ち中心部に於て其の製粉を粗と為し、円周部に至るに従ひ之を微細にするために、粉砕用歯を臼面の中心部に粗に、円周部に於て密に配置すること、及び其の歯を上下の臼面に設けることは何れも従来公知であつて幾多実例のあるところである。例へば乙第一、第二、三号証に示す製粉機の如きも夫れである、尤も此のことは被告が曩に例示した特許第一五九、九一〇号明細書中の其図面第二図にも、当業者として直感的に暗示を受け得る程度に図示されている。そして斯る周知事実から、本件製粉機に於ける「ボール」の配置方について審究するに、畢竟其の点は従来周知の製粉機における粉砕用歯の配置構想を、従来周知の「ボール」式製粉機に於ける「ボール」の配置方に採用したことに帰する。そして仮令夫れが一方「ボール」で他方が固定歯なるの差異あるにしても、其の「ボール」にせよ又歯にせよ何れも其の使用目的及び作用が粉砕にある以上結局其の差異は当業者の単純な転用によつて容易に達せられる事柄で、之をして独創的な発明思想を要するものと為し得ない。以上の様な理由で其の主張点の何れにも新規性なく結局本件製粉機は全体として前記公知若くは周知の事柄から綜合して容易に為し得られるもので新規の発明と認められない。従つて原告の出訴理由は理由なく其の出訴は棄却されるものと信ずる。

右答弁する。

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